豊かで繊細な色を叶える、後染めの技
布を学ぶtextileStudy no.45
遠目からは無地のニュアンスカラーに見え、近づくと揺らぎある糸の多彩な色を感じることができる。[アトリエ ]は、そうした繊細な色を楽しめる、ポリエステルのドレーパリーです。
今回は、この生地に込められた「後染め」の技術と魅力を紹介します。
テキスタイルにおける染めは、意匠を左右する大切な工程です。
その方法には、「先染め」と「後染め」があります。
「先染め」は、糸の状態で染色し、それを織り上げて生地をつくる方法。
一方「後染め」は、染色していない糸を織って、1枚の布になった状態で染める方法です。
高密度な生地を織って染色することが後染めの特徴ですが、さまざまな色の糸を使える先染めに対して、単調な表情になりがち。
しかし、ポリエステル糸の種類や染料、染め方を工夫することで、色が混ざった豊かな表現ができるのです。
染まり方の異なる、3種のポリエステル糸
[アトリエ ]は6色展開。アトリエでいろいろな絵の具を使って作品をつくっていくイメージで、色のミックス感を表現しています。
そのうちカシス色(色番CA)を例に、生地の構造を見てみましょう。
一見落ち着いた赤みに見えますが、近づいて見ると鮮やかなイエローと濃いカシス色、ナチュラルホワイト色がミックスしている様子がわかります。
生地に使われているのは、3種類の糸を撚り合わせて1本にした糸。
この3種類の糸の染まり方の違いが、繊細な色につながっています。
一つは、ポリエステル糸の製造段階で黄色をつけたもの。それに2種類の無着色の糸を合わせて、1本の糸にします。
実はこれら2種類の糸は、それぞれ染まる温度が異なります。
この糸を使って織った一つの布を、2種類の染料を混ぜた窯に入れ、温度を変えていくことで、2色に染め分けることができるのです。
また、生地表面の揺らぎある質感は、染める際の糸の収縮率の違いから生まれています。
生地の表裏で織り組織が異なる二重構造になっており、裏面の方が糸の収縮率が高いため、表面が引っ張られます。それにより、表面の糸が微かに揺らいで凹凸が生まれ、立体感のある表情となるのです。
実用性を保ちながら、豊かな色を追求する
[アトリエ ]は、北陸で製造されています。
北陸は合成繊維の一大産地であり、ポリエステルのものづくりに優れた工場があります。
ポリエステルは耐久性に優れるなど安定した物性や、防炎性能を付与させることができ、インテリアテキスタイルに取り入れやすい素材です。フジエテキスタイルは、信頼のおける工場とつくり方から相談しながら、ポリエステルでどんな表現が可能なのかを長年追求してきました。
後染めで糸の染め分けができるとはいえ、一枚の布の状態で染めるため、それぞれの染料の色が複雑に影響し合います。
色が重なったらどうなるのかを想像し、糸の形状や織り組織、色相や明度のバランスなどを考える。そして、さまざまな組み合わせでたくさんの試作をつくり、思い描く理想に近づけていきます。
[アトリエ ]も、そうした長年の経験とノウハウに裏打ちされた試行錯誤から生まれました。ナチュラルなインテリアになじみながら、深みのある質感を空間にもたらしてくれます。
テキスタイルの実用性と安全性を保ちながら、より豊かな色の表現を追求する。フジエテキスタイルは、変わらずそれを目指しています。
執筆:玉木裕希