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前例なきグラデーションへの挑戦―理想を叶えた印刷のプロ集団

布を学ぶtextileStudy no.40

ボトムからトップへ移ろう美しいグラデーションが魅力のテキスタイル、[ナミノアヤ]。波によってつくられる水面の模様がデザインされた涼やかなトランスペアレンスです。ベースクロスに施された不規則なシワ加工が生地に立体感を生み、描かれたグラデーションにも豊かな陰影を与えています。

折り目をつけた生地に繊細なグラデーションを描き出すという、ハイレベルなカラー表現を手がけたのは、日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社(以下、日本写真印刷コミュニケーションズ)。
京都に本社を置き、1929 年の創業以来、長きにわたり紙の印刷物を主力とした事業を手がけてきた同社は、文化財の複製から豪華な装丁の美術書、展覧会の図録や写真集、高級ブランドの製品カタログまで、高品位な美術印刷分野において、確かな実績を築いてきました。
近年は、長年培ってきた色調管理技術や写真撮影、スキャニングの技術を、布への昇華転写印刷に生かし、高品質なプリント生地を製作しています。


昇華転写プリントとは、専用のインクでプリントされた転写紙とポリエステル生地を重ね、熱と圧力を加えて色を定着させる染色方法。生地表面にインクを乗せる顔料プリントと違って風合いを損ないにくく、発色が鮮やかで、階調表現に優れていることが特長です。

蒸し・洗いなどの後工程が不要なため、環境負荷の低減にも寄与します。
一方で、版一つひとつに合わせて染料を細かく調合していく手捺染と比べ、PC のスクリーンで制作されたカラーイメージを生地上で再現しづらいのが難点。しかもクラッシュ加工された凸凹のある生地へのプリントは高度な技術を要するため、日本写真印刷コミュニケーションズ、フジエテキスタイル両社にとって大きな挑戦でした。

挑戦を後押ししたのは、イメージどおりの色表現を追い求めるプリンティングディレクターのプロ意識と熱意、そして経験値に裏付けられた高い技術力です。
手捺染とのあいだに生じる色表現の幅の差異、印刷の限界値などを熟知したうえで濃彩度を細かく調整し、再現性の高い染色を求めて研鑽する気迫のこもったスタンスは、検討・試行段階から顕著でした。
自らが手がけた完成度の高いテストプリントを手に、「まだまだ手捺染の鮮やかさには及ばない」と評するベテランディレクターの探求心に心を動かされ、「彼らなら安心して頼める」と確信を深めました。

色をとらえる鋭敏な感覚、カラーをコントロールする力、高性能な設備、それらを操る高品位なオペレーションスキルを備えるだけでなく、社の伝統や格に甘んじず、新規事業に取り組む革新性をあわせもつのが同社のスタイル。通常であれば即座に断られかねない折り目のある生地へのプリントも、「機械が壊れない範囲でギリギリまで突き詰めたい」と意欲的に取り組んでもらえました。

立体的な生地にグラデーションをプリントすることにより、折れ目の中が染まらず白く残るのが、[ナミノアヤ]の隠し味。折れ目はアットランダムに表れ、風にあおられて見え隠れする白色が、まるで波間のしぶきのように映ります。作り手の渾身に支えられ、遊び心のある斬新なデザインが誕生しました。


ブルー系のほかに、コーラル系、グリーン系が揃うカラーリングは、それぞれ水に映る空の色をイメージしたもの。
時間や天候、季節とともに移り変わる空の色が表現されています。ひんやりとした心地のよい手触り、プロダクトに込められた作り手の想いや技術など、写真では伝えきれない魅力を、ぜひ実物でご体感ください。



図・画像協力:
日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社

フジエテキスタイルのショールーム: