ウール素材のリサイクル イタリア プラートに伝わる持続可能な布づくり
布を学ぶtextileStudy no.41
ウールならではの温もりと高級感のある風合い、深みのある美しい発色が特徴のテキスタイル[タイム]。
この生地を構成するウールには、イタリアの一大テキスタイル産地であるPrato(プラート)の工場で再生された、リサイクルウールが使用されています。
アメリカやヨーロッパ各地から集められた衣類や、メーカーから出される切れ端、規格外のウール素材などを、上質なリサイクルウールへと蘇らせる伝統の技術。
プラート地域における繊維産業の歴史は12 世紀までさかのぼり、その発展の中で再生毛織物の技法も確立されてきました。
リサイクルウールの生産過程は、まず衣類につけられているボタンやファスナー、異素材の布地などを手作業で取り除くことから始められます。
工場に集められた大量の衣類やウール素材を一点一点確認しながら付属物を剥ぎ取っていく作業は、男性職員が音を上げるほどの力仕事です。
仕分けられたウールは、色の分別・粉砕・洗浄・紡糸・撚糸の順で加工工
程を進みます。
糸になる前のウールは繊維状まで粉砕され、ワタのようにふわふわ。フレーク状になったウールを混合させながら色を調合していくため、職人たちには繊細な色彩感覚が求められます。
クライアントのリクエストや市場のニーズに合わせて、例えばローズカラーなら赤と白の繊維を混合、レンガ色なら赤と茶という具合に、何度もカラーチップと照合し、配合率を微調整しながら指定通りの色を生み出します。
繊維の段階で複数の色を混合するため、糸となったときに色がランダムに絡み合い、奥行きのある豊かな表情のテキスタイルに仕上がります。
撚糸後は丈夫な糸となり、織り上げられた生地はリサイクルファブリックとして世に送り出されます。[タイム]の表面に見られるふわっとした柔らかな毛羽立ち、多数の色が織りなす複雑な濃淡もこの工程を経て生まれたもの。
生地をメガネで見てみると、単色で染められたわけではない、リサイクルウールならではの繊維の特徴が感じられるので試してみてください。
強度を高めるためにウール以外にポリエステル、ナイロン、アクリルを混紡して織り上げています。
近年は環境問題への関心が高まり、リサイクルウールの需要が世界的に増加。羊の毛の色をそのまま生かした無染色のナチュラルウールも、サステナブルの観点からアパレル業界を中心に注目を集めています。
ヨーロッパでは既にサステナブル素材でなければ、使われないケースも多く、日本国内では主にアパレル業界で再生繊維が普及、回収システムも確立されつつあります。
インテリア業界においても、SDGs、エコ、リサイクルに対する関心が高まり、廃PET ボトルでつくられた再生ポリエステルの糸種が増えてきました。
一方で、インテリアテキスタイルで100%サステナブルな生産を実現するためには、遮熱や遮光の機能、耐久性やデザイン性などの面で、まだ克服しなければならない課題が多いのも事実です。
再生素材を使うことには、環境問題改善への寄与のみならず、[タイム]の事例が示すように新たな世界観やストーリーを創出する可能性も宿っています。
フジエテキスタイルは、これまで慣例的におこなわれてきた素材選びをエコの観点から見直すことでサステナブル素材への移行を進め、生地を手にする方への様々な選択肢を提案していきます。