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フィンランドの日常を切り取る 吉澤葵さんの世界 

布を学ぶtextileStudy no.36

今回は、フィンランド・ヘルシンキ在住のテキスタイルアーティスト・デザイナー、吉澤葵さんをご紹介します。


北欧の湖畔に自生する葦が幻想的なシルエットで描かれる[アシベ]。
ナチュラルな素材感のベース地に浮かび上がるジャカート織、その柔らかな手触りとドレープ性が魅力のテキスタイルです。
デザインを手がけたのは吉澤葵さん。
[アシベ]以外にも、空から舞い降りる雪がモチーフの[ルミ]、木の枝を描いた[プー]など、フィンランドの自然から想を得た作品をフジエテキスタイルから発表しています。

アシベ
ヘルシンキの葦
©Aoi Yoshizawa


吉澤さんが拠点を置くのは、ヘルシンキ南部から手漕ぎボートでおよそ10分のハラッカ島。
歩いて一周しても20分程度という小さな島には、もともと軍の化学実験場だった施設をヘルシンキ市が開放したアーティストハウスがあり、アーティストのほか、テキスタイルデザイナーやアクセサリーデザイナー、イラストレーター、ライターなどが約30名、アトリエを構えています。

ハラッカ島
©Aoi Yoshizawa
ハラッカ島のアーティストハウス
©Aoi Yoshizawa


海岸に打ち寄せる波、手が届きそうな水平線、さまざまな種類の草花、さえぎるもののない広い空、冬のやわらかな日差し、しんしんと降り積もる雪──島に残る豊かな自然と四季折々の美しい風景は、多くのアーティストの心を魅了してやみません。長い人では約30 年、開設当時から居留するアーティストもいます。

「夏はアートイベントや展示会などが開催され、アウトドアライフを楽しむ観光客などで少しだけにぎわいますが、秋から冬、春にかけてのハラッカ島はとても静かです。特に島一面が雪に覆われる冬は、何にも邪魔されず創作活動に打ち込めます」と話す吉澤さん。
フジエテキスタイルからデザインを依頼されたときは、まず散歩に出かけることが多いといいます。「自生する植物の葉や花、つぼみ、海、空などを眺めて、写真を撮ったり、木の枝を拾ったり。インスピレーションを得てアトリエへ帰ると、すぐにデザインを描き始めます」。

フィンランド湾に浮かぶ小さな島に流れる豊かな時間が、吉澤さんの創作活動の源となっているのです。

©Aoi Yoshizawa


北欧との出会いは、大学3年生のとき。「交換留学でたまたまスウェーデンのウプサラ大学へ派遣され、北欧ならではのゆとりのあるライフスタイルに魅せられました。
朝の澄んだ空気を吸いながら自転車で森の中を駆け抜けて通学する、アルバイトやサークル活動を詰め込まずに友人と過ごす余暇を大切にする。そんな、肩肘張らないゆとりのある暮らしが忘れられず、卒業後すぐにスウェーデンへ渡りました」。

東京の大学で専攻していたのは、比較文化学。はじめから、アートの道へ進もうと決めていたわけではなかったと、吉澤さんは話します。
「留学当時から関心をもっていた美術の学校へ入りましたが、当初は1年で帰国するつもりでした。それが蓋を開けてみれば、先生やスクールカウンセラーから薦められるまま各地の大学、大学院へと進学。テキスタイルアートの学びをどんどん深めていき、気づけばアーティストを目指していました」

フィンランドの自然をモチーフとする吉澤さんの作品は、抽象化されたデザインでありながら、その場所がもつ空気感や情景までが伝わってくるような奥深さが感じられます。植物を揺らす風、舞い降りる雪など、静けさと揺らぎが同時に存在する独特のタッチも魅力。
洗練された表現とフジエテキスタイルの「シンプル&モダン」が融合し、窓辺に北欧の風を運んでくれます。

©Kastehelmi Korpijaakko
左:木の枝を描いた[プー] 右:雪を描いた[ルミ]



取材協力:吉澤葵さん