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千二百年の歴史と輝き 西陣織金襴

布を学ぶtextileStudy no.37

古来より京都に伝わる「西陣織」は、美しく染められた色糸で紋様を織り上げていく伝統工芸。絣・綴・経錦・緯錦・緞子など、高度な技法を凝らし、多品種少量生産される高級絹織物として知られています。

古墳時代から織られ始めた「西陣織」の中でも金糸、箔糸を使用する「西陣織金襴」は風合いが一段と豪華で、約1200 年前の平安時代には盛んに織ら
れるようになります。浄土信仰の隆盛により、西陣織金襴は「極楽」を表現する絢爛な荘厳具として神社仏閣の堂内を美しく彩ってきました。

今回お話を聞く「西陣 岡本」は、金襴の技術を今につなぐ専門職人集団。4世代100年以上にわたり、神社仏閣で宝物として扱われる金襴を織り続け、日本各地の大本山へ納めてきました。柄を生地巾いっぱいに織り上げる(=一釜で織り上げる)ことが多く、小紋柄とは異なるダイナミックな織物を得意としています。その鮮やかな色彩と金糸の煌めきで表現された織物は、まさに技術の粋が尽くされた最上級の美しさです。

金襴の美しさを決定づける金糸は、金属箔を薄い紙に貼り付け、細かくスリットして糸状にすることで作られます。「金属箔が貼られた平たい糸は、織ったときによじれが生じやすいため、糸の巻き方も細心の注意を払わなければなりません。ねじれを防ぐために手作業を加えながら、指輪のサイズほどの芯に丁寧に糸を巻いていきます。杼※の芯が細いため織り上げる際の糸替えも多くなりますが、美しい仕上がりを追求するための努力は惜しみません」と話すのは西陣岡本の岡本絵麻さん。

※杼(ひ):経(たて)糸の間に緯(よこ)糸を通すための道具。シャトルともいう。

緯糸を浮かして織り込むことによって、絹特有のふっくらとした艶や立体感を際立だせるなど、細部までこだわる丁寧な仕事で完成度を高めるのが、ものづくりの信条。
鮮やかな色に染められた絹糸は、天然繊維ならではの輝きを放ち、角度により多彩な表情を見せます。「経糸は一般的に白黒のものが多いですが、当社では一つひとつのデザインに合わせて色を染め分け、毎回掛け替えています。手間はかかりますが、その分、経糸が表に出る部分も美しいカラーが楽しめるので、豊かな表現を追求できます」


西陣岡本は「美しい西陣織金襴の良さを守りながら、新しいテキスタイルを世界に広げたい」という思いから、近年はデザイナーとのコラボレーションに挑戦しています。
初めてのコラボレーションは「炭酸デザイン室」との共同制作。出会いは展示会でした。もともと岡本絵麻さんと炭酸デザイン室の水野智章さん、水野若菜さんは同学の先輩後輩にあたり、岡本さんは炭酸デザイン室が描き出す大胆で鮮やかな世界に魅かれていたそうです。「展示会で偶然、炭酸さんのブースを発見し、あ!と思って声をかけました。西陣織で何か作りませんかって」

伝統的な紋意匠を織ることとは、デザインも勝手も異なるオリジナル柄への試み。金襴の伝統技術を駆使した新たなチャレンジが始まることとなります。

次回へ続きます


取材協力・画像提供:
西陣岡本(岡本織物株式会社) 岡本絵麻さん



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