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ヒト、モノ、空間の親和性〈都内オフィスのデザイン事例〉

布を学ぶtextileStudy no.39

東京を拠点とするデザインスタジオ「Canuch inc.」(株式会社カヌチ。以下、Canuch)が 手がけた、都内オフィス(以下、B Office)のミーティングルーム兼ラウンジ。シックなトーンでまとめられた内装にシンプルで洗練された家具が配置され、カーテンから漏れる外光が室内へ柔らかな陰影を落とします。

「会議室2部屋と“いい感じ”のスペースをつくってほしい」。
クライアントの抽象的な要望を丁寧な対話で紐解いて導き出した答えは、時を重ねて自然に変化していく“美”の探求。
真鍮やアルミ鋳物のペンダントライト、木のテーブル、そして窓辺で外光を柔らかく受け止めるフジエテキスタイルの[アカリ]──
部屋を構成するすべての要素がしっくりと調和し、クライアントとデザイナーがともに思う “いい感じ”が具現化された空間には、心地よくも研ぎ澄まされた美しさが息づいています。


Canuchは、木下陽介氏と野口優輔氏によるデザインコレクティブ。
2012年の設立以来、ヒトとモノとの関係性を考究しながら、インテリアデザインを主軸に、プロダクトデザイン、マテリアル開発、ブランディングなどを手がけ、クライアントが抱えるさまざまな課題を解決してきました。
プロジェクトのスタートから完結までを管理するマネジメントの立場を担う案件も少なくありません。「多様な領域を分野横断的に手がけ、デザインを通じてクライアントの事業体の認知に貢献できるような、空間レイアウトとしての設計を心がけています」と野口さんは話します。

Canuchの信条は、素材を最大限に活かし、本質的な美を追求すること。「内装の素材、家具の素材、建築素材、さらに、その場所で過ごすヒトをも素材として捉え、すべてが自然に美しく関わり合うような“あり方”を表現したい。我々が構築した空間で、本質的な美を体感していただけたらうれしいですね」

「ヒト、モノ、空間」の親和性を重視したデザインを追求するCanuchにとって、ファブリックは大切な要素のひとつ。
テキスタイルを最後に選ぶデザイナーも少なくないなか、プロジェクトの初期から要件の一つとして検討を進めます。「陰影をパキッとさせず、すべてを柔らかな印象で包みたい、というのがB Officeのコンセプト。部屋の入隅はR形状に仕上げ、その丸みが光の反射を和らげます。それらのイメージにぴったりマッチしたのが[アカリ]です。デスクやホワイトボード、窓枠などの高さと、カーテンのグラデーションをバランスよく揃えて心地のよい“見えない線”を創出し、空間全体の親和性を高められる点にも惹かれました」

[アカリ]は、草木染め(ヤシャブシ染め)のトップ糸を用いた天然繊維100%のテキスタイル。オーガニックリネン、オーガニックコットンの自然な風合いと美しいグラデーションが魅力です。

上から  織り込まれるトップ糸/染められた綿/ヤシャブシの実

糸を先染めすることで耐光堅牢度を高めていますが、化繊に比べれば日光の影響を受けやすいのも事実。しかしながら「耐光性は僕の中で優先度がめちゃくちゃ低いです」と笑う野口さん。

「毎日触れるものですから、自然素材ならではの心地よい手触りは大事。カーテンに限らず、すべてのモノに対して言えることですが、新品同様であり続けることが美しいとは思いません。時とともに変わっていくのが自然、かつ美しいと感じるため、変化のある素材にこそ惹かれます。自分の美学にかなう本当に気に入ったものを選んで長く大切に使っていくことが、サステナブルの根幹ではないかと考えています」



取材協力:Canuch Inc.  野口さん